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見ることが許される性、許されない性、そして疾患を考える

考えがまとまり切らないし、あまり他でそういう研究やデータを聞いたことがないので書き散らしになっちゃうかもだけど、これまでの経験や観察から帰納的に性差別と慢性疾患(特に斜頸)について考えついたことを述べてみる。
この社会において、前提として、”頭が高い”という言葉でもわかるように、一般に目下のものが目上のものをまじまじと見るのは失礼とされている。また、他人をしっかり見ることも失礼とされているので、例えば電車など人が密集する空間においては、人は互いに目が合わないように気をつけている。これは男女ともいえることだが、街を歩いていれば、男性が比較的胸を張って周囲を見渡しながらまた睥睨しながら歩いているのに対し女性はうつむきがちに歩いているのが分かるだろう。これは電車などでもそうで、一般に男性は女性を見つめることを許され、女性は男性を見ることを許されていない。男性同士がどうなっているのかは知らないが、女性同士は私の経験からいくと目線があっても威嚇されたりすることはない。つまり女性が女性を見ることはこの社会においては問題にされない。なぜ私が、女性から男性への視線が社会規範を逸脱したものと考えるかは、もし私が男性の目を直視すれば、唸られたり、舌打ちされたり、攻撃的なボディランゲージで接近されたりといった威嚇をこれまでに数え切れないほどされてきたからである。私はこれについて語る女性にあったことがないが、少なくともこういう経験によって、私は電車、路上、ショッピングモール、海水浴場といった自宅とトイレ以外の全ての公共の場において常に男性を見ないように、注意を引かないようにする努力を強いられてきた。暴力を示唆するような威嚇をされたら誰だってこわいしそれを避ける努力をするようになるものである。
男性は常に女性を観察してよい。しかし逆は許されない。この社会に生きてきて、思春期に入ってほとんど最初に知ったことがこれである。これは大変息苦しく不自由な慣習で、せっかく外に出ても視線をいちいち気にしなければならないので楽しみも半減するというものだ。ビルのイルミネーションを楽しもうにも視線の先に男性がいたらできない。どのくらいの女性がこれを感じているかは知らないが、みんなうつむきがちに歩いているんだからこの慣習はわかっているのだろう。
言うまでもなくこういった慣習は有害だ。女性の自尊心を削るといういみでも有害だし、病気、特に斜頸の観点から見てもそうだ。
ググればたくさん写真が出てくるが斜頸というのは単に首が曲がる病気ではなく横に向く病気である。左の首が悪ければ顔は右を向く。酷いと90度近く廻って固定される。こういう首を持った私に降りかかるのは、悪態と脅しの嵐だ。女性からはされたことがないが反対の性からはよく受けた。だから私は必死に首を矯正した。いつも踏ん張って曲がらないように注意した。いつしかそれは習い性になって、自分の首がおかしいことに自分でも気づかなくなった。患部に痛みがなかったから長い間先天性疾患だとも気づかなかった。そうして私は筋筋膜性疼痛を発症した。終わることなく首の奥が痛み続け、その痛みは頭にも波及した。ただの痛みではない。光や音でさえ悪化し、何年もベッドから出られないようなすさまじい痛み。痛くて眠ることも風呂に入ることも外出することもできなかった。筋筋膜性疼痛症候群というのは一般にトリガーポイントブロックという注射で治療可能なはずである。それをしに上京もした。にも関わらず一向に回復しなかった。したとしても一時的なもので、日常生活ができるようにはならなかった。なぜかというと、第一にトリガーポイントの場所が脳幹の近くすぎて正しい位置に注射ができなかった。そして斜頸のせいで常に筋肉が圧迫されつづけトリガーポイントを形成し続けたからだ。斜頸を無理に矯正しているときだけ筋筋膜性疼痛が出ることに気づいたのはごく最近だ。つまり傍目から見たらまっすぐには見えても実際にはねじれていて、とてもストレートな状態ではなく、そのひずみがトリガーポイントとなって、私を夜も昼も10年以上にわたって苦しめ続けたわけだ。私の比較的がっちりした体型もあったのかもしれないが、斜頸を疑って病院に行っても、その”矯正”のせいで何度も何度も誤診されて苦しんだ。斜頸だという診断が降りず苦しんだ。ほとんど無意識下で、首まっすぐにしなければいけないという思い込みが強くあって、それを取り除くまでに非常に時間がかかった。力を抜いてみれば、私の首はほぼ真横を向き、倒れている。誰が見ても一発で変だと思う。私は四六時中力を入れていなければならない生活と疼痛から解放されて、見た目はひどいかもしれないが、とても安堵した。同時に、ここまで私の首を抑圧してきたものの要因のひとつに、”視線の社会規範”つまり”女性が男性を見ることは許されない”といったものがあることに気づいた。男性の人口が全人口の10%程度ならさほど気にせず素直に首が曲げられただろうが、人口の半分は男性だし、道を歩いているのは男性のほうが働きに出ていたりで多い。彼らの視線を避けるためには真下を見ているしかない。まっすぐに前を見ることはおろか、横を見たら確実に何か言われる。だから私は無理をしてでも首を”矯正”していた。そしてそれが結果として慢性疼痛疾患を引き起こした。
斜頸は珍しい病気だし大抵は幼児期に解決する。だから私みたいな経験をもつ女性はほとんどいないと思う。けれども、もし私の経験がだれかの助けに少しでもなればいいなと思う。

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