筋性斜頸の診断への疑問

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Image By Wallyir

今回は自分の経験を交えて”筋性斜頸に対するこの国の小児整形外科/整形外科の姿勢”について記事にしたいと思う。
私は、難産で生まれた。出生時から首は右に回旋して左に倒れていた。物心つく頃から首に違和感があり、放っておくと右を向いてしまうのに気づいていたが、必死に真っ直ぐにして生きてきた。真っ直ぐといってもはたからみれば何となくそうなっているだけで、常に右足で踏ん張り、左肩は上がり、頭の中心線はずれている、不均衡な状態だった。子供心に覚えているのは、水泳で、クロールの左側呼吸が極端にやりにくいこと、左肩が常に上がっていたこと、首をよく寝違えたことだった。成人するまで、筋性斜頸という病名も知らなかった。気づいた経緯は今回は割愛するが、私はここで疑問を抱いた。私の斜頸はなぜここまで放置されてきたのだろうか。私はネグレクトされていたわけではないし、乳幼児期に健診にも行っている。そこで考えられるのは、医師が見落としたか、気づいたとしても大したことはない、治療を要するものではないと判断し、親に告げなかったかだ。小児整形外科における斜頸の扱いは、欧米に比べるとかなり適当で、治療の基本のガイドラインもないのではないかと推測される。筋性斜頸の子供を持った親は、ほとんどの子供が一歳までに”自然に” 治るといわれるか、良くても” 子供を枕の間に挟んで寝かせること” や” おもちゃを子供の悪い方の側の首に持ってきて首をストレッチさせること” を指示されるだけのようだ。病院のホームページや、投稿された体験談の多くが、小児整形外科医が”保存療法” を現段階でスタンダードの治療としているということを示唆していた。そして、良くならなければ手術に踏み切るという方針であるが、手術の時期は、1-4,5歳が最適という意見が多かった。
これに対し、私が今までに目を通した英語の先天性筋性斜頸の論文の全てにおいて( 書かれた国は、欧米からインド、トルコ、中国まで様々)、また英語のサイトのほとんどにおいて、筋性斜頸児への早期の理学療法の適用が必須とされている。週三回程度の頻度で、専門家による胸鎖乳突筋のストレッチを行い、それにどうしても反応しなかった患者のみが一歳前後で筋の切離手術を受けることになっている模様だった。切離手術後のコルセット装着や、理学療法も当然必須だ。なぜ日本の医療現場が理学療法を取り入れていないのかは疑問である。
自分の場合を振り返ってみると、おそらく小児科医が斜頸についてよく知らなかったのだと思う。そうでなければ診断があった時点で小児整形外科に回され、保存療法だったにしろよくならなければ手術を勧められたはずだからだ。それがなかったこと、そしてネットにおける筋性斜頸への言及の少なさ( 小児整形外科のホームページでさえほとんど言及がなく、理学療法も実施されず、手術部位ーー固くなった胸鎖乳突筋を一箇所切離するのか二箇所なのか、乳様突起の側を切るのか胸骨側を切るのか両方なのかーーについての詳しい情報もなく、何歳で手術に踏み切るのかの見解も医師によって違い、術後の首のコルセット着用期間も医師によって違い、術後の理学療法やリハビリについてはほとんど言及されていない) 、また、いくつかの投稿された体験談( 子供のころ手術したのに治らなかった、手術に踏み切るかどうかの基準が医師によって違う[ 成人の、放置された筋性斜頸の場合]) から、私は、日本においては、先天性筋性斜頸の研究が進んでおらず、統一した見解も治療方法もなく、欧米では効果的とされている理学療法(術前および術後の) も実施されていないこと、おそらく斜頸児専門の理学療法士もほとんどいないだろうという推論に至った。だからこそ、私の先天性疾患は二十年以上に渡り見過ごされてきたのだ。そして、子供の時分の私に、”私の首がおかしいのは、自分の性格が悪いからだ” と自分を責めさせ、長期に渡る首への負担によってとんでもない痛みを引き起こす、筋筋膜性疼痛を引き起こし、最終的に30分机に座ることさえ難しくさせ、不登校にさせ、私のキャリアを破壊した。
ホームページを開いている整形外科医の中には、先天性筋性斜頸は、”命には関わらないから” 放っておいてもよい/治療するかどうかは患者の親に一任してよい、と主張している方や、斜頸を放置していたことによる副作用で、患者の顔面や頭部が変形することに関して、” 大したことはなく、大人になれば目立たなくなる。斜頸での変形で困ったという患者の話は聞いたことがない” と言う方がいる。しかし、私の場合は、放置された筋性斜頸によって幼少期から顔面に対するコンプレックスを抱えー”なぜ自分はこんなに醜いのだろう、といつも思って何事にも積極的に取り組めなかったり、常に写真を撮られることが嫌だったり、顔でからかわれたことによる対人恐怖が、小学生のうちからあったりした” 、また、周りから誤解をされたりー”小学生のとき、無意識に傾いてしまう首のために頭の重みを支えるのが難しく、頬杖をついていたら、担任から「頬杖つくなんて生意気だ」みたいなことを言われて、ショックを受けたことなど” 、慢性の極度の肩凝り頭痛背中痛、そして恐らくは体の不均衡による片側の股関節痛( 長時間立っていると痛くなる。限度を過ぎると立ち上がるのが困難なほどの激痛。先天性臼蓋形成不全があるが、両脚なので、この、片側だけの痛みとは恐らく関係がないと思われる) 、首の動きの制限、筋筋膜性疼痛症候群の発症( 証明はされていないが、多くの筋筋膜性疼痛の医学書において、筋肉骨格系の非対称、不均衡、奇形と筋筋膜性疼痛の関連性が示唆されており、筋性斜頸は首の胸鎖乳突筋の片側が悪くなる、筋肉の非対称を形成する病気である。何より自分自身の経験から、斜頸と筋筋膜性疼痛は密接に関連があると確信している) 、噛み合わせの悪さによる食事の困難さ( 歯並びというよりも、左右で歯の高さが違う。これは斜頸を放置したことにより顔面の変形が進んだ結果であるーー悪い方の筋肉の側の目、耳、口の位置が下がり、鼻筋が悪い側に曲がり、悪くない方の筋肉の側の側頭部がペチャンコになる( 頭蓋骨の形成期に長時間アタマを片側に傾け、別の側に回旋してー左側の胸鎖乳突筋が悪ければ、首を左側に傾け、右方向又は右斜め上方向を常に見ているーー) 、体幹筋(胸鎖乳突筋は平衡感覚を司る体幹筋のひとつ) の負傷によるバランス感覚の悪さ( ボールを真っ直ぐに投げられない、バレーボールのサーブをいつもミスするーー体育でバレーボールがあった人なら、その後クラスメイトがどのような眼差しを私に向けたか分かるだろう。”足手まとい”だーー、平行棒ができない、マット競技で真っ直ぐ転がれない、真っ直ぐに泳げずプールのコース内で人と衝突する、水泳で左呼吸でクロールを泳げと言われてもできない、道で擦れ違う人との距離感をうまくつかめずぶつかりそうになる、股関節が酷く痛んだり、筋筋膜性疼痛で頭が割れるようだったりして運動不足及び足にうまく体重がかからないため、腸の蠕動運動を促さず慢性的に酷いーー一週間近く出ないこともザラなーー便秘、など、首を必死に真っ直ぐにしてもこれだけの弊害を抱え、加えてナチュラルな姿勢のときにはーーつまり顔がほとんど右を向いて左に傾いている状態のときはーー、機能上は前が見れないため信号が確認できない、左からくる人や車を認識できない、人と目を合わせて喋れない( 文字通り顔が横を向いているため) 、傾いている方の腹部にガスが溜まり酷い便秘になる( 一日それで苦しんだ。夜の二時まで)、対人関係上は、公共交通機関がストレスになる(狭い空間のため、例えば着席したときに右隣の人をまじまじと見ている姿勢になってしまい、悪態をつかれたり舌打ちをされたりしてしまったり、相手に居心地の悪い思いをさせてしまう【相手を見ることが失礼という社会的認識がある傾向の社会においては】) 、外出もストレスになる(奇異の目で見られたり、右側を歩く人を凝視するような格好になってしまうことなど) 、などを抱えて生きてきた。斜頸は文字通り人生を破壊した。これが、” 大したことがない” ことだろうか?私にとっては十分に重い、生まれながらに与えられた十字架だった。ネットの体験談などを読んでみても、斜頸によって社会生活の中で、苦い思いを持っている方がたくさんいるようだった。特に大人になってもなお斜頸を患っているという方のほとんどは、学校や会社などで、からかわれたり、そのことでいじめられたりといった経験があるように見受けられた。このように、筋性斜頸という病は、首の回旋と湾曲を伴い、外見を大きく変化させてしまうという、その特徴において、患者を非常に苦しめ、社会生活を困難にすることがある。特に社会的認知が進んでいない社会においては、病気とすら認識されない可能性もある。私が生まれてから四半世紀、自分でさえ自分自身がもっているそれの存在を知らなかったことを鑑みてみても、また、ネットでの、周囲の無理解によってからかわれた、ひどい言葉を投げ付けられて辛い思いをした、などの書き込みをみても、この社会において斜頸への認知度が低いのは予想されることであり、それは、医療現場においても進んだ討議と研究が行われていないことも示唆しているから、ひとたび”筋性斜頸” なるものを出生の時点で神か、それに似た何かに与えられてしまうというのは、この社会においては非常にハンデとなると思う。機能的にも審美的にも、患者に苦痛をもたらすのが斜頸であると私は当事者として思う。そして、そのような人生の困難に晒される患者ーー肉体的にも精神的にもーーを減らすために、更なる研究や、社会への啓蒙を、この社会は行なってゆくべきだと思う。

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