斜頸 2015/7/7 パスワード解除

ここでは先天性筋性斜頸について実体験を交えて説明する。

先天性筋性斜頸とは、生まれつき片方の胸鎖乳突筋が何らかの理由によって損傷し、拘縮している状態を指す。頻度は100人に1人くらいで男女差はない。一般に命に関わる奇形ではないが、傾いたまま放置して成長すると顔と頭蓋骨が奇妙に変形し審美的問題が生じる上、脊柱側彎症になるリスクが上がり、また体のバランスが崩れるために(教唆乳突筋ーーscmは体幹筋であり、平衡感覚と関連がある筋肉であり、また空間認識能力に関わる筋肉でもある)慢性的な肩こり、首の痛み、片頭痛などを引き起こすことから、1-5歳までに自然治癒あるいは理学療法による治療で治癒しない場合、外科的手術で拘縮しているscmを切り離す/切れ目をいれる手術をするのが欧米では一般的である。

 

私は、斜頸という病名を知らなかった。

ばっちり傾いていた私を見ても、医者も親も何とも思わなかったらしい。

斜頸であることを知ったのは20歳を過ぎてからだった。

左のscmが瘢痕化(筋肉は傷ついた時、応急処置的に傷をコラーゲンでおおい、その後そこが筋肉に置き換わっていくが、同じ部位が度重なって損傷した場合、コラーゲン過多になり、そのまま戻らなくなる。コラーゲンは筋原繊維と違って伸び縮みしないため、患部のしなやかさがかなり失われる。これまで、この瘢痕化した部分は、一度そうなってしまったら不可逆的に戻らないとされてきたが、最近の研究によれば筋繊維が再生し得ることがわかっているそうだ) しているため、上を見たり、左後ろを振り返るのが苦手だ。また、頭蓋骨も奇妙に変形し、左の後頭部が盛り上がり、それを頂上として右側の平な面まで、まるで山のように傾斜がかっている。

これは、斜頸を早期に治癒させなかった弊害で、頭蓋骨が形成される時期に、左に首を傾げ、右側を向いて(回旋させて)寝続けたために、シンメトリーな頭蓋骨にならなかったからだ。

更に、左目は右目より低く、鼻は左に曲がり、右の歯が全体的に左よりも低いために、歯は1-2箇所でしか噛み合わず(歯並びではなく噛み合わせが悪い)、左耳は右耳より低い。

重力が均等に分散しないために、右足には魚の目が絶えず、左肩、左首が異常に凝るのはもちろん、バランスをとるために負担がかかる右肩、右の背中、右の股関節、左膝も慢性的に凝ったり痛んだりする。5-6kgもある頭が常に正しい位置にいない負担は大きく、どんなにストレッチしたとしても、根源の左の胸鎖乳突筋は、岩のようにビクともしないので、凝りがとれることは基本的にない。最近は伸びる兆しを見せてきた。

大抵、肩や背中は金属板のように硬直して、痛みがある。

この斜頸に関しては少し悲しい思い出がある。

小学校二年生のとき、担任から言われた一言である。

「両手で頬杖つくならまだしも片手では、、、ちょっと態度大きいんじゃない?」

もちろん、伸び伸びとした胸鎖乳突筋を持った生徒がやったなら、反抗の印ととられることもあるだろう。実際にそうなのかもしれない。しかし、胸鎖乳突筋がカチコチの私にとって、そういった意味合いはなかった。どうしても傾く首と頭を支えるために、頬杖が必要だった。

幼心にそう言われたときはショックで落ち込んだ。

無知は時として人を傷つける。

だからこそ、斜頸やそのほかのマイナーな病気の認知度が上がればいいなと思う。